東京高等裁判所 昭和49年(行コ)75号 判決 1976年10月14日
東京都北区豊島二丁目一七番一号
控訴人
堀内文吾
右訴訟代理人弁護士
渡辺惇
東京都北区王子三丁目二二番一五号
被控訴人
王子税務署長
右指定代理人
島尻寛光
同
加納
同
石井寛忠
同
磯部喜久男
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人が昭和四〇年三月一二日付で控訴人の昭和三四年分の所得税についてした更正のうち、所得金額一、五六三、六五八円をこえる部分及び過少申告加算税の賦課決定を取消す。被控訴人が昭和四一年三月一一日付で控訴人の昭和三五年分の所得税についてした更正のうち、所得金額三、〇五七、六〇〇円をこえる部分を取消す。被控訴人が昭和四一年三月一一日付で控訴人の昭和三六年分の所得税についてした更正のうち、所得金額三、五七五、七五〇円をこえる部分を取消す。被控訴人が昭和四一年三月一一日付で控訴人の昭和三七年分の所得税についてした更正のうち、所得金額六、六四九、〇〇〇円をこえる部分及び過少申告加算税の賦課決定を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陣述及び証拠関係は、次に附加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
(控訴人)
一、(一) 昭和三四年に堀文商店を対象にして行なわれた法人税調査以前には、右法人と控訴人個人との間の資産関係は、成程混沌としていたが、右調査を機会に右両者の資産内容は洗いざらい取りあげられ明確に区分され、したがつてその時以後右両者の資産の混同はなく、原判決別紙目録(以下単に別紙目録という)一、二記載の物件が右調査の結果右法人の簿外資産と認定されながらも、鈴木良作所有名義のままにしておかれたのは、法人税調査を収束するにあたつての納税金額決定と調査事務処理の便宜上から、そのようにされたにすぎない。
(二) 別紙目録記載の各物件は、控訴人が堀文商店の代表者として、会社の他の取締役等とも十分相談のうえ、会社のビル建設あるいは会社の商品取引に関しての機密費等として必要に応じて処分し、その譲渡益を右使途に費消した。このように右譲渡益は堀文商店に帰属しているのである。そして、それは堀文商店の簿外行為、簿外利益として存在したのである。
二、証拠として、当審における証人二ノ宮宇一郎、同田口要二、同土居陽太郎の各証言を援用し、乙第三三ないし三七号証の成立を認める。
(被控訴人)
一、(一) 被控訴人が昭和三四年頃控訴人主張の各物件につき税務調査を行なつたことは認めるが、その際右物件を堀文商店の簿外資産と認定した事実はない。右各物件は、控訴人が鈴木良作名義で取得したものであり、右物件の売却代金の一部に控訴人の手持資金を加えて取得されたものが別紙目録三記載の物件である。
(二) 本件物件の譲渡益の帰属者は、以下にのべるとおり控訴人である。
1. 本件物件一四筆及び建物一棟は、昭和三〇年から三七年までの間に鈴木良作名義で取得され売却されたものであるが、いずれも堀文商店ないしその組織変更による株式会社ほりぶん(以下単にほりぶんという)によつて使用された事実はなく、すべて利益を得て売却する目的で取得され売却されたものであることが明らかである。ところで堀文商店ないしほりぶんは、一貫して食肉等の食料品販売を営業目的とする会社であつて、右にのべたような不動産投資を目的とする営業を行なう筈がなく、また本件のような宅地等の取引に必要であるべき宅地建物取引業法による免許も得ていない。更に、控訴人は、昭和三二年に不動産投資を営業目的とする同族会社である株式会社堀文(設立当初は堀内不動産株式会社と称していたが、昭和三六年に現商号に変更)を設立して代表取締役に就任しているから、控訴人がもし本件物件の取引を会社としてするのであれば、右株式会社堀文によつてなすのが筋であつて、これを前記営業目的の堀文商店ないしほりぶんによつてなすべき必要はなかつたものである。
2. 本件物件の取得及び売却には、一切ほりぶんの印は使用されておらず、すべて控訴人所持の鈴木良作印と控訴人個人印が使用されているから、右取引の主体は、それが鈴木良作でないことが明らかな以上、控訴人個人にほかならない。
3. 控訴人は、別紙目録二記載の物件のうち(ロ)の土地を昭和三三年六月に訴外佐藤工業株式会社に代金一七〇〇万円で譲渡したが、右譲渡益を控訴人の所得として昭和四七年六月二日に納税している。
4. 別紙目録四(イ)(ロ)記載の物件は、訴外株式会社大谷場荘から鈴木良作名義で取得されたものであるが、控訴人は、被控訴人が右鈴木良作に課税し同人名義となつている右四(イ)(ロ)記載の物件に対して滞納処分の挙に出ることをおそれるや、急遽なんらの対価も支払わずして自由にこれを自己名義に移したうえ売却した。そしてこの場合控訴人は右取引の主体と譲渡益の帰属者が控訴人であることを認めている。
5. 控訴人は、本件物件処分の譲渡益の一部がビル建設資金に充てられたと主張するが、ビルを建設したのはほりぶんではなくして株式会社堀文であり、同社のビル建設は、同社の確定申告書添附の決算書によれば、その建設費を上回る滝野川信用金庫からの借入金及び預り保証金によつたものとみるべきである。また、控訴人は、譲渡益の一部はほりぶんの出荷奨励金として支出されたと主張するが、家蓄の買主たるほりぶんは荷主よりも強い立場にあつたのであるから、その主張するような多額の出荷奨励金を支払う必要は毫もなかつた。
二、証拠として、乙第三三ないし三七号証を提出。
理由
一、当裁判所は、控訴人の本件請求は失当であり棄却されるべきであると判断するところ、その理由は、次に附加するほか、原判決の理由と同一であるから、これを引用する。
(一) 原判決書一二枚目裏三行目中「二宮宇一郎」と「田口要二」の各下に「(原審及び当審)」を各加え、一五枚目表八行目中「相当である。」の下に「そして、右に認定したことは、時期的に昭和三三年秋頃から翌三四年春頃にかけて行われた前記税務調査より前に取得された別紙目録二記載の物件についても、またそれよりも後に取得された同目録一、三記載の物件についても、差異は認められない。」を加え、同裏九行目中「の証言」を「、原当審における証人二宮宇一郎、当審における証人田口要二の各証言」に改め、同行中「及び」の下に「当審における証人土居陽太郎の証言と」を、一〇行目中「結果の」の下に「各」を、一六枚目表九行目中「購入したこと、」の下に「右堀文商店の貸付資金は実は控訴人個人が金融機関から借入れて調達したものであること、」を、同裏初行中「は右」の下に「鈴木名義の堀文商店に対する」を、同行中「借入金の」の下に「元利金の」を加え、八行目中「具体性を欠き明確でなく」を「当審証人土居陽太郎の証言によつても「本社ビル」を建てたのは堀文商店ではなく株式会社堀文(旧商号堀内不動産株式会社)であるなど、右本人の供述は合理性必要性を欠き」に、九行目中「右」を「別紙目録記載各物件の」に改め、同行中「処理されたこと」の下に「については、にわかに信用することのできない当審証人土居陽太郎の証言を措いては、他にこれ」を加える。
(二) 原判決書一八枚目裏九行目中「失つた」の下に「が、これにより売買代金が減額されたかどうか、またその額がいくらであるかを明らかにする資料がないので、その不明を納税者の不利に帰せしめることができない」を加える。
(三) なお控訴人および被控訴人はそれぞれ前示の如く当審において新らたな主張をしているが<1>前掲控訴人の当審における新らたな主張(一)において控訴人が主張するように昭和三四年の堀文商店を対象とする法人税調査以降控訴人個人と堀文商店との間に資産の混交はなかつたとの事実はこれを認め得ないことは前段認定(本判決が引用する原判決一五枚目表一行目から同八行目までおよび本判決理由一(一))のとおりであり、<2>また控訴人は右(一)において被控訴人が別紙目録一、二の物件を堀文商店の簿外資産と認定したと主張するが、前段認定(本判決の引用する原判決一三枚目表九行目から同裏一行目まで)のとおり被控訴人は右物件が堀文商店の簿外資産ではないかとの疑を懐きながらも右税務調査の結果結局右物件を一応鈴木良作の資産と認定したものであつてこれを堀文商店の簿外資産と認定した事実はなく、この点は前掲被控訴人の当審における新らたな主張(一)において被控訴人が主張するとおりである。<3>右被控訴人の当審における新らたな主張(一)のうちその余の事実中右物件の売買代金の一部が別紙目録三記載の購入資金の一部に充てられたことが認められることは前段認定(本判決が引用する原判決一五枚目裏六行目から同一六枚目表六行目まで)のとおりである。<4>前掲控訴人の当審における新らたな主張(二)において控訴人は本件物件の譲渡差益をもつて堀文商店がビルを建設したと主張し当審証人土居陽太郎の証言中にはその趣旨に沿う供述があるがその措信できないことは前段において摘示するとおりであり、かえつて右ビルを建設したのは前掲被控訴人の当審における新らたな主張(二)5において被控訴人が主張するように株式会社堀文であることが成立に争のない乙第三六号証及び同第三七号証によつて認められる。<5>同(二)1の被控訴人の主張事実中本件物件の大半がその取得数年を出でずして転売されたことは前段認定(本判決が引用する原判決一〇枚目表五行目から同一一枚目表七行目までおよび同一七枚目裏九行目から同一八枚目表六行目まで)のとおりであり、また堀文商店ないしほりぶんの営業目的が被控訴人主張の如く食肉等の食料品の販売等であるのに反し昭和三二年控訴人を代表取締役として設立された株式会社堀文の営業目的が不動産の投資等であることが成立に争のない乙第三三号証ないし同第三五号証によつてこれを認めることができこの事実は前段摘示(本判決が引用する原判決一六枚目裏四行目から同一〇行目まで)の別紙目録記載の各物件が堀文商店の資産として処理されたと認めることができないとする認定の理由を補足するものである。<6>同(二)2、3の事実および同(二)4の事実中別紙目録四(イ)(ロ)の物件の所有名義が鈴木良作から控訴人に移されたのは鈴木良作に対する滞納処分を危惧したためであるとの点を除くその余の事実を認定できることは前段摘示(本判決が引用する原判決一三枚目裏七行目から同一四枚目表五行目までならびに同一六枚目表九行目から同裏四行目までおよび同一七枚目裏九行目から同一八枚目表三行目まで)のとおりである。
以上控訴人の当審における新らたな主張事実はこれを認めることができずかえつて被控訴人の当審における新らたな主張の諸事実を認定できる。
二、よつて、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用は敗訴当事者の負担とし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 菅野啓蔵 裁判官 舘忠彦 裁判官 安井章)